せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

読み終えた

タイトルの印象からてっきりイチから十まで万葉集に密着!な本だと思い込んで読み始めたら、記紀神話古事記の比重が高い)や日本霊異記、それに律令体制下での戸籍台帳など広くとりあげられていた。万葉集からは防人の歌や東歌、貧窮問答歌、それと恋歌いくつかについて述べられていた。俺の好きな、若菜摘みの娘をナンパする雄略天皇歌については、「この丘に 菜摘ます児 家聞かな 名告らさね」のくだりが、求婚にあたって、相手がどこの家の者であるか、つまり父親が何者なのかを知ることがひとつの様式となっていることの表れとして挙げられている。どこそこのだれだれの子の○○です、でワンセット*1
本のサブタイトルに「律令国家成立の衝撃」とあって、律令体制導入というのがどんだけの変化を人々にもたらしたのか、今まで色々な本を読んだのにいまいちピンときていない俺にはなんじゃらほいなフレーズだったのだが、読んでみたらなんとなくじわじわわかってきたような気がした。「え?かっくいい小奇麗な都城みたいなのができて役人が闊歩しちゃったりするんでしょ?あおりをくらって農民の人が苦労して、山上憶良が歌に詠んだんでしょ?」ぐらいの結構失礼な認識だったのだけど、それはほんとに単なるイメージ映像にしか過ぎないんだな、と思った。
とにかくこの本から読みとったことを俺なりに解釈してまとめると、律令制によって社会はこんなことになった。

  • 都市生活者層の誕生、貨幣によって膨らむ「欲望都市平城京」、今まで存在し得た母系家族制が父系のそれに取って代わられていく(説話にしばしば現れる、独居する老母の姿)
  • 戸籍制度、班田制の影響(「個」が「国」とじかに向き合い、その個を覆っていた皮膜のような旧来の家族という概念、それに基いてきた、あるいはそれを支えてきた規範が溶解し、律令制度にそぐう形で再編成をうながされる)、よって変化は都市部だけではなく当然地方にも及んでいく
  • 急激な変化によって動揺する社会に浸透していく仏教思想(子が子であることを拒み、母が母であることを捨てざるを得なくなったとき、そこに起こる出来事を理由付ける手段としての説話)

んー、メモしてみたら急に具体的じゃなくなったな。俺の頭がもうだめだ。とにかく古代の歌や説話の読み解き方が圧倒的に面白いので俺は圧倒された。ああ文章力がついにもうだめだ。とにかくこの人の書いたものを他にも読みたくなった。この人の眼を通して読む古代って、とても生々しい。
あと律令制のあけぼのの導火線に火をつけた!みたいなかんじで大化改新のことがちょっぴり語られていて、当然といえば当然なのだが俺の気になる孝徳天皇の名前が出てきたので面白かった。そうか、日本霊異記ではしばしば「孝徳天皇の世に…」という出だし文句が出てくるのか。「頃は維新の…」とか「あれは戦後の混乱期…」みたいなもんだろうか。ところでその姉皇極・斉明天皇は、続く天智帝・天武帝の母でもあったわけだけど、斉明帝は俺の中では息子中大兄の傀儡というよりは古きよき(実際に良い政治をしたのかどうかはさておき)女王の典型ってイメージがあるんだよな。自ら戦陣を率いて遠征しようとしたり、雨乞いを見事成功させたりとその事跡はなんだか神話チックに思えてしまうのだ。そんな女王であるところの姉に見放されてひとり取り残された孝徳天皇はやっぱり気の毒だ。難波宮でいったいなにがあったんだ。

*1:ロシアの父姓みたいなもんか?ミドルネームといった方が通りはいいのだろうか、父親の名を自分の名前一式の中に含むので、フルネーム名乗ると父親の名前が判る。たとえばゴルバチョフのフルネームはミハイル・セルゲイヴィチ・ゴルバチョフで、父親の名前がセルゲイ。英語の苗字のマクなんとかってのも「なんとかの子供」って意味だったんじゃなかったかなあ。違ってたらすいません。