せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

今年のクリスマスは中止になりました

中止にしたいよ。
俺、とある中小サンタ事務所に所属してるんだけどさ。
ほんと、中止にして欲しい。俺ほんともうやだ。
この世界に入ったのは5年前。俺はまだまだ若造だから、白ひげつけて、毎年日本のとある地方都市をまわってるよ。おじいさんしかサンタはやれない、というのはあれ嘘だから。寒い夜中に大きな荷物しょって、なんてどう考えたって老人の仕事じゃないっしょ。つうか昔はどうだったか知らないけど今は俺みたいなの多いよ。ま、これから団塊の世代が大量にリタイアしてきたらどうなるかわかんないけど、でも悠々自適なじいちゃんたちは、きっと大事な自分の孫にプレゼントを買ってやるのがクリスマスの楽しみってもんなんじゃないかと思う。
いい仕事だとは思うよ。俺子供好きだし。俺自身はこの先子供を、というか家庭を持つようになるとは思えないし、だから子供を育てる親の苦労ってのはきっとこの先も味わうことがないんだろうけどさ。担当地域の子供がどんな風に過ごしているのか日々リサーチしてさ、クリスマスにはその子のところにそっとプレゼントを置いてくる、本当にドキドキするひとときなんだよ。よだれたらして眠ってる子供を見てさ、ああ、この子去年はまだあんなに小さかったのに、もうこんなに背が伸びたんだな、とか、そういうことを思うとちょっとジンときちゃったりさ。
けど最近、事務所に入荷するプレゼントが、微妙におかしいんだよ。アニメの主人公が持っているケータイ型の変身グッズとか、まあこのたぐいのものは子供たちが喜んでくれる定番商品なんだけど、検品しているとなんかちょっと。箱の隅が潰れていたり、商品に色ムラがあったり、コスチュームなんかは縫い目がひきつっていたり。つうか、おい、これなんて微妙にキャラクター名を変えただけの明らかな偽物じゃないか。「チカチュウ」ってなんだよ。どこから仕入れてるんだよこれ。
あと、カードバトルやゲームソフトなんかも、やけに古いのとか、ひどいのになると明らかに程度の悪すぎる中古なんかが入ってる。どう考えても今普通には出回ってないだろってなハード用のものとか。いや、親御さんがよく知らないで騙されて買ってくる、とか、苦しい家計をやりくりして子供に買ってやる、とかそういうケースだってあるだろうし、プレゼントの価値が値段や流行だけで決まるものだとは俺も考えたくない。でもさ、俺たちサンタなんだぜ。ずっと子供たちのそばにいて楽しいことつらいことを一緒に経験できるわけじゃない、だから一年に一度だけ、彼らに夢を配るんじゃないか。で、とりあえず不良品の報告と代替品補充の申請を出したら、担当はちらっと見ただけで却下。「補充している余裕はないんです、このままでお願いします」・・・んなばかな、と思ったよ。
納得がいかなすぎるってんで所長に直談判したら、「しょうがないじゃないか、うちだっていろいろ苦しいんだ」の一言だよ。
確かに経営状況が決して楽観できないものだということは、下っ端の俺も知っている。でも、ほんとにしょうがないことなのか?ここ2年ほどでうちの事務所が受け持つエリアは逆に広がっている。ここと同じような、いやここより苦しい状態だった周りの零細サンタ事務所が次々と閉鎖して、うちがそれらの区域を新たに割り振られたのだ。世界サンタクロース連合(通称サ連)からの資金割り当てはその分増えているはず。ここまでプレゼントの質を落とす必要がどこにあるんだ。ましてやうちのエリアじゃ子供の数だって増えているわけじゃない。むしろ逆。言っとくけど人件費は、つうか俺の給料は3年前から変わっていないぞ。担当区域は広がったけどな。
いったいどこに資金が消えているんだろう、なんて考えながら倉庫の隅で潰れた箱を手にしたまま座り込んでいると、次長が通りがかって、俺にふた言三言、言い置いていった。「自分の身が大事なら、あんまり詮索しないほうがいいぞ」「ただでもらえるものに、文句なんかないだろう。もしもクレームがついたら、そのときに個別に対応すればいいじゃないか」って・・・。
なんかもう、イヤな世界を垣間見た気がするよ。
どんな業界だってそういう、決して奇麗事じゃすまない部分ってものがあるんだろう。だから、こんなことでやる気をなくす俺ってただの世間知らずなのかもしれないけどさ。でも、これじゃなんのために、誰のために俺たちが働いているのか、わからないじゃないか。一番大切にしなくちゃいけないものを、ないがしろにしているんじゃないか。俺たち、一体なんなんだよ。
ああ、子供の頃は本当に、サンタに憧れていたんだけれどなあ。憧れだったからこそ、サンタになるべきじゃなかったのかもなあ。少なくとも、ここのサンタ事務所には入るべきじゃなかった。こんなにサンタクロースとしてのプライドのない奴ばかりの場所を選ぶべきじゃなかったんだ。
25日の朝目を覚まして、俺の配ったプレゼントを見た子供たちは、どんな顔をするんだろうか。
ああ、今年のクリスマスは中止にしたい。