せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

妄想を膨らませるっていう言い回しがあるよね
膨らませるといったら風船ですよ
顔を真っ赤にして息を吹き込んでおおきく膨らませるゴム風船ですよ
手を離したらシュルシュルいいながら飛んでしぼんで落ちるんですよ
だから妄想バルーンっていうかっこいいタイトルでお話を作ったら
いいかんじにタイトル倒れのお話ができると思って
わくわくしながら部屋に帰ってきてパソコンの電源を入れて
「まてよ、こんな耳触りのいい言葉、すでに誰かがもう考え付いているんじゃ」と
がいしゅつの恐怖におびえながらぐぐる様に聞いてみたら
やっぱりすでに誰かがもう考え付いていたのでもうだめだと思った
 
でもせっかくだから 気を取り直して 語っておこう 不思議な風船の話を
 
町のはずれの駄菓子屋に たまに入荷するそれは
息を吹き込んでも膨らまない 欠陥品の風船だった
だから子供たちはそれを買わない 遊べやしないから
僕はそれを知っているから 50円払って ひとつ手に入れる
 
紐をくくりつけて しっかりつかまえているんだ
街を歩くときにも ラーメンをすするときにも
本を読んでいるときにも 眠っているときでも
 
そのうち膨らみだす その赤い風船の
中身になにが つまっているのだろう
僕がなにかから逃げるたび 逃げて楽しい思い出を
今に持ち込むそのたびに 風船が大きくなっていく
空気より軽いらしい 赤い風船の中身は
やがて膨れ上がって 僕のからだをふわり浮かせる
 
紐をくくりつけて しっかりつかまえているんだ
泣き叫ぶかわりに 酔っぱらって吐くかわりに
悪口を耳にしたときに いたたまれなくなっても
 
やがて僕はふわふわと 心地よくあちこちを飛びまわる
赤い風船が 僕を連れまわしてくれる
僕が とうてい現実になりえないことを 思い浮かべるたびに
風船はどんどん ふくらんでいき 僕のからだは高く高く浮かんでいく
ありっこない そんなわけない
わかっていても ふわふわと
漂っていたくて 僕は
風船の中身を すべてかなう僕の夢だと信じている
 
薄く伸びたゴムの膜は やがて限界をこえて
べよん、というなさけない音とともにあっけなく破ける
50円の安い夢で 空高く舞い上がっていた僕は
落ちる 落ちる
落ちて臓腑をぶちまける
 
紐をくくりつけて しっかりつかまえているんだ
覚悟ができているならば
そうでないなら 指をくわえて
ほかの誰かが 大空へ浮かんでいくのを
やがて地面に 落ちてくるのを 見ているがいい