せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

近代式火葬の過程

火葬は火葬場にて行われる。火葬場一軒につき一基もしくは複数基の火葬炉や火葬釜が備わっている。これらの焼骨設備は摂氏870〜980度(華氏1,600〜1,800度)の高温を発生させられるため、遺体を確実に処理できるのである。火葬場はチャペルや葬儀場の付属施設として作られていることもあるが、独自の施設及びサービスとして共同墓地などが提供していることもある。
現在使われている焼骨設備の燃料としては天然ガスやプロパンが挙げられるが、1960年代初期までは石炭やコークスも使用されていた。
現代の焼骨設備には調節可能な制御システムがついており、火葬の間、炉の監視を行っている。
火葬炉は一度に二体以上の火葬を行うようには作られていない。アメリカを含め多くの国でそれは違法なのである。だが死産児と母親、あるいは死産となった双子など極めて特異な事例については例外として認められることもある。
遺体が置かれるスペースは「釜(レトルト)」と呼ばれる。レトルト釜は熱に強い耐火レンガで覆われている。このレンガは徐々に温度劣化していくため、通常は5年ほどで交換時期を迎える。
現代の火葬炉はコンピューターにより制御され、法律に即した安全な運用がなされている。例えば、火葬炉の温度が運転温度に達するまで、炉の扉を開くことはできない。また、棺は熱が逃げないよう、天開きの扉*1から可能な限り迅速にレトルトへと送り込まれる。棺をチャージャー(動力つきの台車)に乗せ炉内へ速やかに送り込むか、あるいは傾斜する台に乗せて火葬炉に落とし込むといった仕組みもある。
炉内への遺体送入を身内に見せてくれる火葬場もある。中には昔ながらのヒンズー教ジャイナ教の葬儀など、宗教的理由から行われるケースも見受けられる。
ほとんどの火葬炉は標準サイズである。大都市ではたいてい、200キログラム(441ポンド)を超える重さの遺体を扱う大型火葬炉を利用することもできる。また大規模な火葬場には、胎児や幼児の火葬を行える小型の火葬炉を設置しているところも多い。

遺体用コンテナ

米国では、火葬の準備が整った遺体は専用のコンテナに収容しなくてはならない。このコンテナは段ボールでできた簡素な箱でも、木でできた棺でも構わない。ほとんどの棺桶製造業者が火葬専用に作られた棺を取り扱っている。また、伝統的な木の棺桶に似せて作られた外型にすっぽりと納まるボール紙製のコンテナを選ぶこともできる。葬儀の後、火葬前に内側の箱だけを取り出し、外側の箱は繰り返し使用するのである。また葬儀場によっては棺のレンタルも行っていて、伝統的な棺桶を葬儀の間のみ使用することが可能である。葬儀の後で遺体は火葬用の別の容器に移される。レンタルの棺桶には取り外し可能な中敷とカバーが使われることがあるが、これらは一度使用されるごとに取り替えられる。またいくつかの国では、動物の火葬を禁じているところがある。
英国では、上記のように遺体を棺からコンテナに移し替えることはない。遺体は棺ごと火葬されるため、英国用の火葬用棺桶はすべて可燃性の物質で作らなくてはならない。火葬実務基準によって、いったん火葬場に到着した棺を開けることは禁じられており、また遺体は葬儀と同日に火葬するよう定められている。よってイギリスでは、斎場において納棺された遺体はその棺に納められたまま火葬されるのである。このため、棺の蓋を閉じる前に宝飾品のたぐいを除去することが推奨されている。火葬完了後、遺骨は磁場を通され、金属片がそこで除去される。取り出された金属片は火葬場の敷地内に埋められ、その後で遺灰が遺族に引き渡される。
オーストラリアでは、葬儀業者の提供する棺に遺体を納め、火葬する。再利用型の棺やボール紙製の棺も、取り扱っている業者の間で評判が高まってきている。費用が問題となる時には“チッピー(chippie)”という商標名で知られる合板製の簡素な棺が候補に挙げられるだろう。持ち手は(付いていれば)プラスチック製で、火葬炉での使用も認められている。棺は天然素材の厚紙製や表面仕上げなしの合板(ビロードの覆いがかけられる場合もある)から、一枚板の木で出来たものまで様々だが、化粧合板で作られた製品が大半を占める。
火葬の諸業務のうち「受け渡しのみ*2」を利用することも可能である。火葬に先立って(前もって教会にて式を行っていたとしても)火葬場での礼拝は省略することもできるし、また別途火葬場の礼拝堂にて告別式を行ってもいいのである。「受け渡しのみ」の場合、火葬場側は遺体を一晩冷蔵にて保管するなどして、火葬炉の稼動スケジュールを最大限効率的に組むことができる。その結果、料金も安く抑えることができるのである。このようなサービスは業界用語で“西の礼拝式(west chapel service)”と呼ばれることがある。

焼骨と集骨

遺体を納めた箱はレトルト釜に収容され、摂氏750度から1,150度(華氏1,400から2,100度)にて焼却される。火葬の過程で遺体の大部分(特に内臓)や柔らかい体組織は熱によって気化や酸化を起こし、発生した気体は排気システムによって排出される。火葬が完全に終わるまでにはおよそ2時間を必要とする。
火葬後には、乾燥した骨の破片(リン酸カルシウムと微量のミネラル分から成る)が残る。色は通常薄いグレーを呈し、非常に大まかにみて遺体の元の重量の3.5パーセント(子供の場合2.5パーセント)の重さとなる。乾燥した骨片の重さは骨格部分の重量に密接につながってくるため、体重自体よりも身長や性別の影響が大きいとはいえ、その数字には人によって大きな開きがある。アメリカ・フロリダ州において算出された成人の遺骨の平均重量は5.3ポンド(約2.4キログラム)、2ポンドから8ポンド(900グラムから3.6キログラム)までの開きがあった。性別による二峰性の分布を示し、男性は4から8ポンド(1.8から3.6キログラム)、平均で6ポンド(2.7キログラム)となった。女性は2から6ポンド(900グラムから2.7キログラム)、平均で4ポンド(1.8キログラム)という結果となった。このサンプルでは、概して6ポンド(2.7キログラム)をこえる重さの遺骨は男性のもので、4ポンド(1.8キログラム)を下回るのは女性の遺骨であった。
腕時計や指輪のような装身具は通常取り除かれて遺族の元に返却される。必ず取り除かなくてはならない唯一の人工物としては、ペースメーカーが挙げられる。破裂して火葬炉を傷める恐れがあるという理由による。ペースメーカーの電池に含まれる水素も大気汚染を引き起こす深刻なリスクとなる。イギリス、あるいは他の国でもおそらく、葬儀業者は火葬場へ遺体を搬送する前にペースメーカーを除去し、その旨を明記した申告書に署名しなくてはならない。
焼却が完了すると骨片はレトルト釜から掃き出される。係員は“砕骨装置(cremulator*3/口語ではcrembolaとも)”と呼ばれる粉砕機を用い、遺骨を砂粒のような外見へと整える(使用される機器の性能により状態は様々であり、火葬後の最終的な遺留物の中には骨と視認できる物体が含まれていることもある。元の骨の状態や設備による)。通常、砕骨装置は回転式あるいは粉挽き式の仕組みを持ち、重い金属球が用いられていた旧式の装置と同様、骨を細かく砕くように作られている。ball millの項を参照。
日本、及び台湾の葬儀では、事前依頼がない限り遺骨には破砕処理をせず、家族によって拾骨が行われる。
これが、技術用語である“遺灰(cremains/cremated「火葬された」とremains「遺物」からなる造語)”が用いられる一方で、遺骨が“灰(ash)”と呼ばれる理由のひとつである。しかしながら、北米火葬協会では“cremains”という単語を人の遺骨に対して使うべきではないという見解を出している。愛する者の“cremated remains”というフレーズが人間的なつながりを感じさせるのに対し、“cremains”という用語は、故人との絆を想起させるような響きをなんらもたないのである*4
遺灰は容器に収められるが、簡素な厚紙製の箱から装飾を施された骨壷に至るまで、どのような容器でも利用可能である。また、火葬においては事後、炉の内部に微量の遺留物が残り、その後の火葬にどうしても混入してしまうことが避けられない。
遺留物には骨以外のものも含まれている。見逃していた宝飾品や棺桶についていた部品、歯の詰め物、人工股関節*5のような外科医療器具などが溶けてできた金属の塊が見つかることもある。チタン製の人工股関節や棺桶の蝶番などの大きなものは、砕骨装置を傷める恐れがあるため、通常は遺骨の破砕前に取り除かれる。それらは遺族に返還されることもあるが、鉄または非鉄金属として売却されるのが一般的である。砕骨後、詰め物や指輪などの小さな金属類(“落ち穂(gleanings)”とも呼ばれる)はふるいにかけられた後で、墓地の敷地内にある共用区域に別途埋められるか、あるいは貴金属スクラップとして売却される。

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*1:この単語がこれでいいのかようわからん。上面にハッチが付いてる火葬炉の画像ってまだ見たことないので。"top-opening door"

*2:原文:“delivery only”。配送のみ?

*3:こーゆーの http://www.combustionsolutions.co.uk/Products/DFWEuropeAshProcessor/tabid/87/Default.aspx

*4:ここんとこ、日本語の語彙と完全には一致してないので自分は英語な人とまったく同じ理解はできてないと思うけど、ニュアンスとしてはわかる気がする。業者さんが使う合成語だとなんとなく味気なくて身内の遺骨を指す名称としては抵抗があるってことかな。日本でもたぶん対象によっては「ご遺灰」とか、ちょっと呼び方変える

*5:hip replacement:こーゆーの http://www.zimmer.co.jp/artificial/hips/index.html