せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

ジン ジン ジンギスカーン

ジンギスカンを食べに行った。流行ってるのか!!!
昔、我が家ではよく食べたものだった。ちゃんと、真ん中が小高くなった黒いジンギスカン鍋も常備されていて、母親はジンギスカンの前日から玉葱と林檎をすりおろして軽く熟成させ、香り高い本格的な手作りのたれを用意していた。
というか、うちでは「焼肉」といえばジンギスカンだった。焼肉という文字はすなわち、羊肉の獣臭い脂がマグマのごとく溝を伝い麓へと流れ出して、もやしや玉葱、人参にしみわたり猛々しい音と煙を立てる漆黒の地獄谷の情景を意味する言葉なのだった。我々某家の子供たちは、ホットプレートが導入されるまでずっとそれこそが焼肉であると認識して育ち、これ以外の環境下で作られる肉料理、羊肉以外の肉料理はたとえ焼肉のたれをつけて食するものであっても焼肉とは言わずただの焼いた肉と判断した。焼肉と焼いた肉は違うのである。カレーと野菜サラダくらいに違うのである。
そんな昔話はどうでもいい、と思ったのだが。
まだ開店して間もない店で食べた柔らかく分厚く上品な色をしたラム肉は、まさに飼いならされた羊にふさわしいおとなしい匂いを奥歯の間に立ち上らせた。炭へと姿を変えていく脂が発する青白い煙はすべて頭上の四角い排気装置へ吸い込まれ、天井を這い回る銀色のパイプを通ってどこかへと消えていく。
何かが違う。何かが足りない。
しかしそれが、もうどうあがいても手に入らない何かであることは確かなのだった。