せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

読み終えた

聖域 (講談社文庫)

聖域 (講談社文庫)

「聖域」というタイトルの未完の小説の原稿。行方不明の作家を探し出し、作品を完成させ世に送り出そうとする出版社の編集の執念が、作家のみならず、その周囲で破滅していった人々の数奇な人生の足跡を炙り出していく。これ、すごかった。「弥勒」も「ゴサインタン」もぐいぐい引き込まれていったけれど、これは途中まで、それほど夢中になって読むことができなかった。でも読み終えたとき、いや、最後の20ページほどを読む間、なんだか涙が止まらなかった。前任の編集者篠原のように虚無に飲み込まれかけた実藤は、やがて物語の結末を己の心の中にも見つけ出す。それを形にするために、作家に、幾度も繰り返した言葉を改めて突きつける。「書きなさいよ」。彼は作家の命も背負っていく覚悟を見せる。
そこからの物語は、きわめて簡単にしか書かれていない。作中作の「聖域」も、ラストは読者に明かされてはいない。でも、小説の結末がどんなふうかよりも、そこに行き着くまでの捜索劇、遠回りになった謎解き、そして作家と編集者の対峙が面白かった。筆を折り、今は仏おろしをする霊能者としてひっそりと暮らしていた作家が、命を削って実藤に見せたもの、そして実藤がたどり着いた死生観は、頭では「ありがちな話じゃないの」と思ってみたものの、やっぱり深く心に残る。いやーもう「心に残る」だなんてほんとにそれこそありがちな幼稚な感想文しか書けなくてじれったいったらありゃしませんよ。