せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

晩飯

  • もうかざめの漬け焼き
  • 白菜と豚バラ肉の中華スープ
  • 納豆かけごはん
  • りんご(予定)

駅からの道中、ほんの気まぐれで一本裏の細道を歩いた。小さなスナックの入り口に雑然と積まれた段ボール箱の上、大人の目の高さぐらいのところに大きなトラ猫が鎮座しており、わたしが目を細めながら近寄るとゆっくり立ち上がり地面へと降り立った。
こちらへ向かって歩いてくるその姿に嬉しさを覚えながら、人慣れしている猫なのだな、もしかしてこちらの足に体を摺り寄せてきてくれたりするのだろうか、と有頂天への階段を上りかけたわたしの耳に響いてきたのはしかし、バリバリという無粋な音であり、その音はどこから来るのであろうと暗い足元をよく見ると、わたしの穿いている60デニールのタイツの左の甲にかの猫がしっかりと両前足の爪を突き立てているのであった。
目が合うとトラ猫は前足をわたしの足の甲から離し、体の向きを変えるとスタスタと去っていった。つまりわたしの足はトラ猫の愛撫の対象どころか便利な爪とぎの道具と見なされたのであり、バリバリという音を立ててもなおしばらくわたしがそれに気づかないくらいの愚鈍な人物であるということをあらかじめ猫はお見通しだったのだと確信するにつれ、足の甲からはジンジンと甘い痛みが心に向かって立ち上ってくるのであった。
帰宅して足を見ると、奇跡的にタイツは無傷であることが判明した。おそらく猫の爪はすべて極細の化学繊維の網目の隙間に刺さりこみ、伸縮性に富んだ編み糸自体を傷つけることがなかったのであろう。そしてそれならば、あのバリバリという賑やかな音はどこから発生したのであろう。おそらく、愚鈍なわたしがいま感じている左の足の甲の痛みのあたり、60デニールのタイツの生地ではなくて、わたしの皮膚であるとか肉であるとか毛細血管であるとか、そういうものが破れる音であったのにちがいない。少しだけ怖くなり、タイツを脱ぐのをためらっているわたしである。