弟よ
たまには実家に電話を入れろよ
忙しいのはわかっているよ
休日だろうとなんだろうと携帯が鳴って
職場に呼び戻されるのを何度も見ているよ
しかし実家からかかってきた電話には出ろよ
俺がかけた電話にも出ろよ
もしものときにどーすんだよ
小さい頃から兄弟の中でいちばん母親にべったりだったお前が
オトナになったらいちばん最初に家を飛び出した
変わらなきゃと思ったその気持ちをマイマザーはあんまり受け入れられなくて
ちょっと離れただけなのに鬼のように心配したもんだが
その心配の方向がちょっと互いにとって不幸なほうへ向いて
すなわち顔を合わせれば飯をちゃんと食えと小言を言われ
たまの休みは朝から電話で起こされ
そんなこんなで足が遠のけばこんどは押しかけられ
強制的に掃除洗濯食材買い込みを実行され
そりゃ俺だってきっとキレる キレるだろうが
ここでキレたままになってはいかん
家庭のあれこれをいつも他人事のように眺めてきた
ポーカーフェイスのあのファーザーまでついに心配しはじめた
このままではそのうちファーザーが
畑でとれたネギやナスやトマトを持ってお前の部屋へ行きかねんぞ
部屋ならまだいい
職場に行くかもしれんぞ
しかも両手に持ったビニール袋いっぱいに詰まった
ネギやナスやトマトとともにだ
早く連絡しやがれボケ
とメールしようとしたら弟のメールアドレスは
去年の夏にすっ飛んだパソコンに入っていたのみだったことに気がついた
弟よ
たまには実家に電話を入れろ