朝っぱらからなんとなく掃除をはじめてしまったのだが、昔もらった手紙やら保険証書やら古い預金通帳やらを捨てられずにぎっしり詰め込んでいる箱を久しぶりに開けてみると、自分ではとっくになくしたと思っていた白い封筒が出てきて、おそるおそる開いたら、あのときまだ信じられなくてぼうっとしていた自分のもとに届いた会葬御礼の手紙が入っていた。薄墨色で印刷されたあの名前を、自分は、訃報に接するまで知ることがなかった。今でもあれは彼があくまでリアル空間にのみ存在するための文字列であるのだから、自分が呼びなれていた名前の主はまだこの世界のどこかにいるのではないかと思うことがある。
