せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

浦島太郎はUFOにさらわれた。
UFOはとっても楽しいところに太郎を連れて行ってくれたので太郎はとっても楽しかった。
でもUFOは、情けをかけたつもりなのか、太郎を地球へ再び連れ帰ってきた。
そして、自分たちだけが故郷の星に帰ってしまった。
浦島太郎は地球に帰ってきたのがいやでいやでしかたなく、朝から酒を飲んではふらふらと近所をうろつきまわり、疲れると寝て、また朝になると酒を飲む、という暮らしを続けていた。
そのうちふと、自分には好き合っていた恋人が、オトヒメとかいう美形エイリアンとはまた違う、人間の恋人がいたということを思い出した。
その恋人に会いに行った。
会えなかった。
会えなかったというのは正確な言い方ではなく、浦島太郎がUFOにさらわれて楽しいところで楽しく暮らしているうちに地球ではものすごい時間が経っていたので、恋人はとっくに他の人のところに嫁に行って子供をもうけて多少波乱もあるけど幸せで平和な一生を終えて墓の下で眠っていたのだった。
浦島太郎は泣いた。泣いて泣いて夜空を仰いで、自分を連れて行ったUFOに恨み言を吐いた。楽しい時間を過ごさせてくれた異星人たちにずっと感謝していたというのに、恩を忘れて恨みをぶつけた。
最先端のさらに先行くテクノロジーを自由自在に小指の先で操る異星人が、宇宙空間に細かく張り巡らせたセンサー網でその恨み言を聞きつけた。
最先端のさらに先行くテクノロジーを自由自在に小指の先で操る異星人は、申し訳ないと思ったのか、クローン星という星に、かつての太郎の恋人にそっくりな生物を一体発注した。
浦島太郎がある日目覚めると、かつての太郎の恋人にそっくりな生物がそこにいた。
太郎は狂喜したが、その生物は中身は一般的な地球人のメスとしてインプットされていたために、酒びたりの太郎のもとを去って普通の好青年といい仲になった。
とっくりをひっくり返して太郎は泣いた。
そしてそのクローン生物が異星人のよこしたものだったことに気づいた太郎は、自分に言い聞かせた。
「あれは彼女じゃない」
それでも彼女のかたちをした生物は毎日村の水場で楽しそうに洗濯をして、楽しそうに村の女どもと語り合っている。赤い目で遠くから見つめる太郎を見つけると、何か怖いものを見てしまったかのように、そそくさと荷物をまとめて恋人の家に戻ってしまう。
太郎は、決心した。
異星人にもらった玉手箱を開けた。
玉手箱には、最先端のさらに先行くテクノロジーを自由自在に小指の先で操る異星人が生成した毒ガスが詰まっていた。太郎の体は一瞬にして化学変化を起こし、煙となって消え去った。