40代二人、30代二人で飲み会であった。なんでかわかんないけど世代の話になり、今のアラフォーって本当に元気ですよね、自分の身の周りのアラフォーの人たちってほんっとに勢いあるですね、という話から、自分たちの世代って人数がやたら多くて、その割になのかそのせいなのかわからんけどなんだかいい目を見てないような気がするっつか、少なくともそういうマイナス思考に陥りがちのような気がするんですよ、というボヤキになって、個人的にはバブルよりもその前の円高不況の方がずっと深く記憶に残っている、という話をしてもアラフォーの人にはどうしても納得してもらえなくて困った。
あの頃は父親が、出向やらなんやらと仕事でたいへんな思いをしていて体を壊したりストレスから周りに当たり散らしたりと荒れていた。ファーザーは口下手な自分のつらさを家族にも判って欲しいと思ったのだろう、不況関連の記事、特にどの企業がどのような行動を取ったか、どの工場で何人が解雇されたか、という内容のものを見つけるたびに、新聞から切り抜いては画鋲で居間の壁に貼り付けるのを日課としていた。いわゆる「こんな風に今の世の中は厳しくなっているので、父がいつ失業してもおかしくないという覚悟はしておいて欲しい」という無言のアピールなのだけども、時々増えていく「合理化」「一時帰休」の見出しが踊る活字の群れを見て俺は、父親をいたわらなくちゃ、とかそういう親思いの思考へは走らずただただ、その無機質な文字たちが我々の家庭の存続を脅かしているのだと見て取った。夜勤明けで帰宅した後母親とささいなことで言い争いになる父親の形相から、俺は父の失業どころか、即一家心中くらいの勢いで死まで覚悟してたんだよ。
いやこれがマジなんだよ。俺って昔からあんまり親のこと信用してなかった嫌なコドモだったんだけど、同時に臆病なものだから俺なんか簡単に要らないって捨てられるんだとも思ってて、でもこの分じゃファーザーはヤケを起こして俺を捨てるどころか全部ご破算にしちゃうんじゃないかって、コドモながらに真剣に恐怖してたの。でも実際そうなっちゃう家庭もあったんだよ。
で、さっき飲み会に集まった面々にちょっとそのことを説明しようと思って話し出したら、「父親が不況関連の記事を切り抜いて壁に貼っていた」ってとこへ差し掛かったとたんに、思い切り笑われてしまったんだよ。嘲笑とかそういうんじゃなくて、何の悪意もなく、「お父さんおもしろいね!」ってさ。一時期俺を心の底から震え上がらせたとある事柄が、自分より人生経験豊かなはずの人たちに、思い切り面白がられてしまったんだよ。ああこれは自分のしゃべり方がいけなかったんだろうか。というかそういう話を酒の席で始めた俺が悪いんだろうか。そうだろう。むしろそうであって欲しい。悪いのは俺である。きっとあの場にいた俺以外の全員にとってこれは笑い話でしかなく、その場で話題になっていた世代論とかも多分一切関係ないのだ。俺がかつては親の気持ちも読めずに勝手にすぐ絶望する変なコドモであったうえ、現在になってもそれを消化できないでいる、どうしようもない愚者であるというだけのことだ。そうだそうにちがいない。ああ俺死ねばいいのに。