へんな夢みた。
俺はおかっぱ頭の色白文学青年だった。時々女性と間違われる。どういうキャラだこれは。ビジュアル的には今やってるガンダムに出てくる人から構想を得ているな。俺、あの人絶対あとで女だと判明するんだ!と思いこんでたし。アニメ三銃士のアラミスみたいに入浴シーンつきでな!!
でそのメガネ青年つまり俺は、学生だった。所属サークルはサークルと見せかけて実は政府依頼のスパイ活動を行っており、アメリカに偽外務省情報を流したり逆に情報を盗んだりとなかなか物騒なことをしていた。学生にやらすなこんなもん。
で、俺は春休みの課題でちょっとしたヘマをやったので、同じ大学の学生を一人消さなくてはならないらしい。商売道具をモノレール桜田公園駅の対向式ホーム、2番線のコインロッカー36番にしまってあった。そこに女装用の化粧道具とハイヒールと白いカシミアのコートと、拳銃を入れてあった。
だが俺が消さなくてはならない人物は俺のことを知っていて、女装したところで顔を見られれば俺のことだとわかってしまうだろう。駅は人だらけで、万が一急所を外して断末魔に俺の名前を叫ばれたりしたらもうそれで俺は終わりだ。だが、駅を出てしまえば任務はかえってやりづらくなる。慎重に、確実に行わねばならない。ポケットの中の36番の札がついたロッカーの鍵を汗にまみれた手で握り締めた。まず武器を。そして、やっぱり女装は必要だ。しかし思った。駅のトイレで女装するとき、男子トイレに入るべきなのか、女子トイレに入るべきなのか。これは非常に難しい問題だ。
そんなことに思考をめぐらせているうちに敵対勢力が急に銃撃をしかけてきた。俺は課題をすっかり片付けなくてはならないのに、これだから敵というのは困る。空気読んでよ。ってーかまだロッカーの鍵は手の中にあり、銃はロッカーの中にある。俺は駅長室から長机を引っ張ってきて、それを横倒しにして防壁にしてナイフを投げて応戦。なんてじょうぶな駅長室の長机。防弾仕様とは。
そうこうしているうちに敵は撤退し、俺は改めてターゲットの姿を探す。いくつもの路線の始発駅となっているここの構内は広く利用客でごった返しているが、まだ桜の季節には少しだけ早く、改札を出て公園へ向かう人はほとんどいない。付近住民しか歩いていない駅前の通りで事を起こしたら目立って仕方がない。やはり、駅構内で、あの男が改札を出る前に終わりにしなくては。
コインロッカーのある2番ホームはなぜか途中で断絶していて、駅コンコースから進行方向前寄りの階段を使って上がらないとロッカーにたどり着けない。間違えて後ろの階段で上がってしまい悔しさを噛み締める。こみ上げてくる焦りを胸に人をかきわけかきわけ駆け下りて再びコンコースへ出る。そこへ消すべき相手と鉢合わせる。何も知らない相手はにこやかに俺に言葉をかけてくる。銃がなければナイフを使えばいいじゃない、ということにやっと気づいたのだがナイフもさっきの応戦で使い果たしていた。ちゃんと拾っておけばよかった。どうする。どうする。
挨拶もそこそこに前階段へ走った。ホームへ飛び出してコインロッカーへ。鍵を持った手が震える。気づかれたかもしれない。もういい。人目をはばからずやるしかない。そして俺はどこか遠くへ逃げよう。冷たい音をたてて開いたロッカーから紙袋を引っ張り出し、愛用の銃を手に取り、はおったコートの前開きに隠す。標的は後の階段を登って今、途切れたホームの向こう側に立っている。狙えるだろうか。狙える。モノレールが滑り込んできたら銃を構え、ドアが開いた瞬間に撃つ。
まもなく列車が参ります、とアナウンスが聞こえた。これから消す相手は何も知らずにホーム後端の白線ぎりぎりに立っていて、その向こうには白く霞む公園の敷地が見えた。まだ咲かない桜並木の細い枝々は交差し合って網目をなしつつすべてが天を目指していた。
満開のが見たかったな、と思ったところで目が覚めた。