- 作者: 幸田文
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1955/12/27
- メディア: 文庫
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一番印象的な場面。ちいさな鯛と赤飯の御膳を病床の父親へと持っていくが、父は具合が悪くそれを食べられない。それでもこのわびしい膳の中身をどう思うだろう、と申し訳なさに溢れる筆者の想いをよそに、長いこと膳を見つめていた父はやがて「するすると夏がけの下へ手をひっこめ、しずかに仰向きになると眼を閉じたままにこっと笑った」。筆者は父が、やはり貧しかった幼い頃にその母がこしらえた御膳を思い出しているのだと直感する。