博士、博士どこ？
ビクトルが動かないの
博士どこ？
あ、思い出した、博士はもういなくなっちゃったんだった
ビクトルを起動するときに
生身の人間だった博士は 感電しちゃったの
だから博士はもういないの
ときどきビクトルが ダークストーカーと
たたかうときに 力をかしてくれるだけ
だから ビクトルが動かないと 博士にも会えないんだった
もしかして それと一緒なのかな？
わたし ずいぶん長いこと 眠っていたような気がするの
わたし 人間で言ったら「死んでいた」のかもしれない
ビクトルは わたしを起こしてくれたのかもしれない
ビクトルは わたしのかわりに 死んでしまったのかもしれない
ねえ どうして 誰かの目をさますために
誰かが えいえんに 目を閉じなくてはならないの？
わたし ビクトルといた日々 たのしかった
毎日が ひとりじゃなくなって
屋敷の窓から 空をながめて暮らすだけの日々が
どれだけ私にとって さみしかったのかを はじめて知った
これからはまた さみしい
さみしくない日々を知ってしまったから
前よりもたぶんもっと さみしい
「わたしがビクトルの動かなくなったからだに
電気をわけてあげれば ビクトルはきっとまた目を覚ます」
そうだ そうにちがいない
でも できない どうしても できない
ビクトルに 電気をあげたら わたしは どうなるの？
やっぱり また 動かなくなっちゃうのかな？
と わたしの中の わたしが言ってる
わたし できない
こわい
ごめんね、ごめんね ビクトル
でもわたしおかしいの かなしいのに涙も出てこない
博士 わたしを人間そっくりに作ったって言った
電力が足りなくなったらあくびがでるし
ときには 涙をながすこともできるって
そう言ってくれたけど 涙は出てこない
カタカタと音をたてて 体中がふるえるだけ
人間は かなしいとき 涙をながすんでしょ？
涙 出てこない
わたし かなしくないのかな？
博士 博士
わたしは失敗作ですか？
ビクトルと同じように わたしには できない
ビクトルのために 泣くことも できない
かなしいと おもっているけれど
これがほんとうのかなしみかどうかも わからない
博士 博士
やっぱりわたしは 失敗作ですか？
だったら ビクトルに かわりに目をさましてほしいけれど
やっぱりできない こわくてできない
はかせ はかせって
いつもきおくのかたすみにのこる
はかせのはなしをしていた ビクトルは
おれ はかせに ほめてもらいたかった といっていた
おれ はかせがよろこんだら うれしい
おれ はかせのおかげで こうしていられるから
ビクトルはいつも おれ っていってた
おれ きほんてきに つよい とか
おれ さいきょう とか
わたしも おれ っていってみたら
ビクトルのように つよく なれるかな
ビクトルくらいに やさしく なれるかな
そうしたら いつのひか
ビクトルに でんきを あげられるかな
はかせ はかせ
おれ しっぱいさく？
ビクトル しんでも おれ なみだ でない
おれ ビクトルがまためをさましたら うれしい
だけど おれ できない
ビクトルが めをさましたら おれ うれしい
でも めをさましたら おれ もういない
