せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

ウチのニャンコちゃんが

餌のついた釣り糸が目の前をプランプランと垂れ下がり、全身を覆う汚れた短かな黒い毛があちこちでヒステリックに逆立った。
食べたい、食べたいのだ。
彼女は腹を空かしていた。釣り糸はスパゲティでできており、先には甘く濃厚な汁を体内にたたえているであろう、見るからに美味そうなミミズがくくりつけられていた。彼女はなんでもおいしくいただくことを信条としており、夜中に近所をうろつきまわって目にするものはあらかた試していた。小さな蛾だけは、飲み込むときにむせる不快感と、それとひきかえに得られる味とが引き合わない。
しかし釣り糸が目に見えて太すぎるため、食いつく自分の姿はいかにも滑稽であるに違いない。いや、そもそもきっとそれは自分を捕らえるためにぶら下げられたものではないのだろう、いずれにしても糸を垂らした人間の失笑を招くのみだと判断して彼女は汚れた毛をなだめ、後ずさりをして自分のねぐらに戻った。
猫なで声に期待して相手に媚びようと近づいてみても、それが自分を呼んでいるものでなかったならば、彼女の皮膚は黒い毛の下で赤く青く染まり、彼女の意識は遠のき、彼女は塀からコロリと落ちて動かなくなるのだろう。彼女は臆病なのだ。
ねぐらは雨漏りがした。彼女は自分がまだ艶やかな毛並みを自慢にしていた頃に与えられた香り高いカツブシの味を夢混じりに思い出し、震えながら寝言にひと声ニャーと鳴いた。