- 鶏笹身とトマトとわかめのサラダ
- ザーサイ
- 淡麗<生>
ゆうべあれだけ俺を悩ませた奥歯の痛みだが、担当歯科医に訴えると自分の主張する親知らずではなく、前回既に虫歯と診断された手前の歯の、噛み合わせ部分に開いたごく小さな穴からくるものだとの説明。人の意見に左右されやすい自分はそう言われればそんな気もしてなんとなく納得する。
しかし自分の歯なのに痛む箇所がきちんと把握できていないというのはどうなのだろう。このくらいの勘違いは普通なのだろうか。腹部が痛いときにどの臓腑のどの部分が痛いのかを正確に言うことなども普通はできないだろうから、痛みを感じるにしてもその位置の認識に歯1本分くらいの誤差があってもおかしくはないということなのか。
それはそうと痛みが発生していない、まだ初期も初期の親知らずだが、側面に小さな穴は開いていた。歯肉にくいこんでいる部分で機器も届かない奥の奥なので、と説明され、削らずに虫歯菌を殺す薬を塗り、その上からセメントを盛ってもらう。もしも本当に痛み出したら引っこ抜いてもらうから覚悟しろ親知らず。
そしてその手前の歯は先日の右上奥歯と同じく削ってから詰め物。20分足らずで2本の治療が終了。「今日はしみましたね、すみません」と謝られたが、実はまったく痛みがなかった。不思議だ。
痛かったのはついでにと頼んだ歯石除去の方だった。フック船長のアレのミニチュア版のようなかぎ型をした金具が口の中にさしこまれ、ガリガリガリ。声にならない悲鳴が脳内を駆け抜ける。ひいいい。ガリガリガリ。脳内ひいいいい。
時々痛い。いや、しょっちゅう痛い。なんだこれは。俺は歯石を貯めすぎていたのか。いや、溜めすぎていたのか。貯金じゃないっつうの。コツコツとこんなもん貯めてどうすんだ。ガリガリガリ。ひいいいい。
途中何度か口をすすぐよう言われ、身を起こし、その通りにする。吐き出された水は黄ばんだ赤が溶けたいやな色をしていた。これだ。20年ほど前に半べそをかきながら乳歯を抜いてもらいに行った自分の記憶に焼き付けられた、歯医者のイメージ。銀色の椀状の容器に吐き出され流れ去っていくよごれた水。だがしかしそれはほかならぬ自分の体から出たものなのだ。