せすにっき

日記。2019年1月にはてなダイアリーから引っ越しました。2024年もそこそこ適当に生きたい。

読み終えた

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

終戦のローレライ(4) (講談社文庫)

いやあ、おもしろかったです。凡俗どころか貧相な自分の脳みそにとっては理解に余りある濃密な物語と人生模様を仮想体験できるとてもすてきな小説でした。終章だって、ここまで書いてしまわなくてもいいのに、と思うほど書き倒してくれているし。
で、物語の中であんまり注目されないだろうな、でもものすごく泣けるな、と思うキャラクターというのがいて、それが小松さんという人なんですけども、とにかく軍規とか風紀とか規則とかそういうたぐいのものにガッチガチに縛られていて、他人をもそれで縛り付ける融通の利かないキャラなんですけども、その融通の利かなさは人の言うことを生真面目に真に受ける不器用な人のよさというか一種の純粋さのあらわれと思える部分があって、ほんとに面倒くさい人なのに憎めないのですよ。話の最後のほうで、自分でもわからなくなったぐちゃぐちゃな気持ちをかかえて、仲間たちとすごした潜水艦「伊507」を離脱するんですね。で、このとんでもない計画をたくらんだ黒幕のいる離島へ戻るわけなんですけども。
いろいろあって、彼は黒幕を撃ち殺してしまう。「天誅!」と叫びながら。そして撃ち殺した後にそばにいた人間に自分も撃たれて命を落としてしまうのだけれども、その「天誅!」がもう、どうしようもなく不器用な男だった小松さんらしくて俺は泣けて泣けてしょうがないのです。
ほんとうに不器用な男は、「俺は不器用だから」なんてかっこいいセリフは吐けるはずがないんだ。自分というものをまわりに伝える言葉を持たず、よって周囲からは疎まれ、嘲笑われ、どうしようもなくて規則というものや正義という嘘まみれのものさしにすがるしかないんだ。
だから、自分や自分と生死をかけて力をあわせた仲間たちをひどい目に合わせた憎むべき対象に対しても、弾丸とともに「天誅!」という半ば現実離れしたことばを見舞うことしかできなかった。本当は「よくも俺らをこんな目にあわせたな!」って、それでいいはずなのに。人間としての「怒り」を、素直に表現することさえできなかった、そんな不器用な小松さんにほんとに泣けて泣けてしかたないのです。
亡国のイージス」の風間さんもそんな感じで悲しい人だったのですよ、と思った。映画版の風間さんは、嘘みたいな唐突な死に方をするのでより悲惨です。